百合と漫画と光る苔

百合とゲームが好きです

科学者と,科学の信奉者  ――七葉なば『となりの魔法少女(1)』感想

 でも もう もはやだめだ
 おまえにわたしは たおせない
 化物を倒すのは いつだって人間だ
 人間でなくてはいけないのだ!!
    ――平野耕太HELLSING

 内気でぼっちな少女・あき.そんな彼女と友だちになろうと,普通少女・けぇ,理屈少女・ウサの2人が近づいてくるが,実はあきは魔法少女で……という少し不思議な日常萌え4コマ.芳文社の萌え4コマ専門誌『まんがタイムきららミラク』で隔月連載中.

 メタ魔法少女ネタも仕込みつつ,絵柄・メインキャラ3人の関係・ストーリーと全方位で心を暖かくする仕様.友情を育むというのも主題の一つなので,それはそれは良いライト百合分が補給できます.

 この漫画のテーマは「あきの在り方」だ.あきが魔法少女として――「魔法を使えるだけの,少し変なただの女の子」として――あき自身がどのようにしたいのか.それを探る物語.

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 あきは,魔法少女である.別に魔女と戦う使命を課されてるとかってわけじゃない.願いを込めて,指先をくるくるっと回す,それだけで魔法が発動して願いが叶うし,指パッチンでキャンセルも可能.ただし,その願いの大きさに比例した長さの眠りに就く必要がある.あきのおばあちゃん曰く,「魔法で作られたものは 決して“本物”になれない」そうな.魔法で心を操って友達を作ってしまったあきに対する情操教育の一環に聞こえないこともないが,真実であるとしよう.

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 ウサは,理屈少女である.科学の信奉者であり,ピュアなロマンチストであり,分析者兼ツッコミ役.事故で昏睡状態に陥った弟がおり,彼が絡むと少々冷静さを欠くようだ.ちゃんと中二病は発症していたようでなにより.いや,ある意味変わってはないのだけれど.でもニュートリノラプラスの悪魔の話をする辺り,中二的実証主義からは脱したんだろうきっと.

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 けぇは,普通少女である.普通の女子高生であり,普通に友人関係を至上に置く,普通の人間.敢えて特徴を挙げるなら,スケッチを趣味にすることくらい.いやあ,普通.彼女の物語的な役割はバッファー.すぐに萎縮する小動物とあまりに強い言葉を使う人を,緩衝して包括して溶けこませる.その世話焼きっぷりは,あたかも魔法と科学を,別次元にあるものを共存させる.彼女は普通だ.それ故に――最強なのだ.


 この巻の後半は,ウサの弟が大きな役割を担う.眠ったままのウサの弟を「魔法で起こすことができるかもしれない」というあき.そんな魔法使いを,ウサは「人間をなめるな」と喝破する.これはわからないでもない.なにせ,今までのウサの自信満々な世界に,弟を救う方法は存在しなかった.ウサはあくまで,科学に頼る.

 ウサの弟を目覚めさせる.例えば,ウサが魔法ではなく自身の手で弟を目覚めさせれば,納得するだろう.そしてウサは,魔法で直接弟を叩き起こすことを全否定する.では,魔法でウサに弟を起こすだけの知識と技術を与えるケースならば.そもそも医者が目覚めさせる場合は.じゃあ機材を魔法でレベルアップさせるのなら.むしろ医者を魔法で改造して直させたときは.……ウサと弟以外に弟の運命を託しているのが変わらないんだったら,魔法によって直接起こすことを否定するのは,あくまでウサの非論理的なエゴに過ぎない.

 だがウサは,科学に頼る.正確には,魔法と科学を統合し融合し綜合する.そしてあくまでも,科学を,自分を恃むのだ.字面だけなら何も変わっていない.しかし,ウサはもう「科学ではないもの」を,「魔法」と「感情」を彼女自身の世界に取り込んだ.つまり,「科学と魔法のどちらも選ぶことができる.もちろん魔法の方が便利だろう.しかしそれでも,科学を選ぶ」という気高さを,真の誇りを得たのだ.

 さながらそれは,「人を殺してはならない」という他人から何の理由もなく与えられた教条を,「殺人はしても構わない.だがわたしはしない」という意思表示に昇華させるよう.反概念は思考の外に追いやるのではなく,主概念と組み合わせることで高みに登らせるためにある.ようやくウサは,あきによって,「科学の信奉者」を脱して,「科学者」への一歩を踏み出したように思えてならない.……素粒子を知っておいてラプラスの悪魔を持ち出すのは,少し違和感が拭えないけど.いや,魔法少女を目の前にしてパラレルワールドが存在しないとも言い切れるわけがないので,それはそれで意味はあるか.

 魔法少女は変える.宇宙を,世界を,そして人を.なんでもできるけどなんにもできない魔法少女が,友人を,人々を,そして彼女自身をゆるやかになごやかにまろやかに変化させていく.そんな風景に癒されるからこそ,わたしはこの漫画が大好きなのです.

 ……そしてこのカバー裏である.あきかわいい.

となりの魔法少女 (1) (まんがタイムKRコミックス)

となりの魔法少女 (1) (まんがタイムKRコミックス)