百合と漫画と光る苔

百合とゲームが好きです

武器・防具は装備しなきゃ意味ないぜっ!  ――ドナルド・J・ソボル,武藤崇恵『2分間ミステリ』感想

 トミー オレを騙せると思ったか? ニセ金で尻尾を巻いて帰るとでも?
    ――『Grand Theft Auto: Liberty City Stories』

 ショートショート様短編ミステリ71本をまとめたハヤカワ・ミステリ文庫の一冊.表題の通り,本文だけなら2分程度で読めてしまう.そのわずか1,000字程度に潜んだ謎や矛盾を,書かれている文章と,自らの持つ知識でもって解き明かせ,というスタイルはシンプルで楽しい.元々が英語なので,日本には馴染みのない文化を絡めた問題も多々あるし,やはり言葉の少なさがネックで状況説明に不足を感じる問題も見られるが,そこまで斜め上な解答はない.……ほとんど.

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 こういった推理クイズは,一見学校でやるような勉強とは違って,面白く映る.実際にこの本のコピーを教材として生徒に渡した所,普段勉強をやる気のない子が,能動的にその問題について調べたり,友達同士で一緒に解き合ったりと,非常に興味深い反応を示していたりした.確かに学校でやらされる勉強は,基本的に知識を詰め込むことを重視されがちだ.

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 例えば,体を鍛えていない人間がいきなりフルマラソン,なんてことは間違いなく無理だろう.まずは数kmのジョギングから始めて,徐々に距離を伸ばしていく.そんな地道な鍛錬こそが,目標の達成を導く.

 勉強も,物を系統立てて考えることも,これと同じである.いきなり東大の入試問題なんて解けない.まずはもっと簡単な問題から慣らして,考え方を確立する.この「練習」というプロセスは,「基礎構築」という最も重要な部分は,決して疎かにできないし,そこを上手くやるのが優れた教師なんだろう.「考えれば誰にでも理解できる」とは,傲慢故の無理解なのだ.

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 特に小中学生の言う「学校でやる勉強がつまらない」は,勉強の仕方を知らないだけ.勉強の成果がどこに活きるかがいまいち不明瞭――ただしこれは「教育」というものが抱える,「教育をある程度受けなければ教育の価値がわからない」という構造上の逆説のせいなのだが――なため.その長い長いゴールを埋めるために定期テストなんてものがあるわけだが,より小さい目標として,この本のような「知識の応用先」を作ってあげる事が,生徒先生でWin-Winを勝ち取るメソッドの一つに成り得るだろう.

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 推理クイズも,あくまで学校でやる勉強の延長線上にあるもの.こういう「パッと見勉強に見えないもの」で「学ぶ姿勢・意識」を自然に身につけられると理想なんだけどなあ.

 ……答えは貼りません.ちなみにわたしが一番好きな問題は上述のQ.33.是非高校生に,特に理系の子に出してみたいです.

2分間ミステリ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

2分間ミステリ (ハヤカワ・ミステリ文庫)



下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

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