日常と,日常の中の非日常と,日常の中の非日常の中の日常 ――松井優征『暗殺教室(4)』感想
「自分は弱いから」「自分にはできっこないから」
そうやって勝つチャンスを探すことすらしないヤツは
真の弱者に成り下がるぞ
――甲斐谷忍『ONE OUTS(12)』
イリーナ先生の暗殺,転校生,球技大会で引いた4巻目.
ついに徐々に殺先生の弱点が明らかになってきた.殺先生といえどもこの世界の物理法則には逆らわないようだ……と思わせておいての圧力光線というちょっとうさんくさいなにか.わたしたちの手が届く場所に降りてくる,と思ったら逃げられる,そんないたちごっこ――彼に言わせれば「後出しジャンケン」――には少々がっかりしてしまったが,この視点は読者も生徒たちも同じだった.そしてだからそれゆえに,その生徒たちが悔しがるシーンは何よりも心地良い.
先生を殺すだけなら,いくつも手段はありそうに思える.謎圧力光線で一瞬でもひるませられるし,対先生ナイフは化学的アプローチかは知らないが触れただけで触手という武器を奪える.全身が細胞でできているということからも生物学的に殺す手段はたくさんありそうだし,電子レンジでチンや毒ガス,放射線なんてのも効きそう.生い立ちも含めて,やはり「殺先生をどうやって殺すか」よりも,「殺先生はなぜ殺されていないか」の方が考える価値余地が有りそうだ.
完全に自己洗脳を行った眼.自己洗脳は手段と目的をすげ替える最も簡単な方法.学校の中において,学業と運動という,数字としてフィードバックされる概念に固執するのは楽であり妥当な道ではある.それを覆すだけの「暗殺」というスキルを磨いているE組が,その「暗殺」というスキルに頼らずに勝ちに行く.正に「日常の中の非日常の中の日常」であり,日常と非日常の線引きを曖昧にしているこの漫画らしい展開には思わず目頭が熱くなる.
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だけど勝ちたいんだ殺せんせー
非日常の中の日常.『暗殺教室』という漫画は前提からして非日常だ.マッハ20で飛び回る謎の生物・殺先生.それを機密かつ国を挙げて暗殺しようとする中学生.それ故に,日常的なパートがとても良く映える.そしてその日常的な――わたしたちの手の届く――部分は少年誌らしく「努力」で表現される.わたしがこの漫画で最も好きな所は,あくまで暗殺者は努力から脱し切らない点なのだ.
- 作者: 松井優征
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- メディア: コミック
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ONE OUTS 12 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
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