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ヤンキードラマが流行ると教師は苦労する  ――長谷川英祐『働かないアリに意義がある』感想

 いかにいはむや、つねにありき、つねに働くは、養性なるべし。
    ――鴨長明方丈記

 アリといえば働き者の代名詞.「アリとキリギリス」の話は普通に生きていたって学校の先生から耳にたこができるくらい聞かされているだろう.自分の数倍ほども大きい食糧を,みんなで力を合わせて運んでいる姿は確かに労働の象徴.きっと働きアリに生まれたら,一生を労働とその歓びで満たされておしまいなんだろうなあ.

 ……嘘である.働きアリの7割は普段は働かず,しかも1割に至っては一生働かない.更に更に,働かないアリがいるおかげでアリの社会がきちんと回っている.こういった事実を発見した著者が,アリやハチといった「真社会性昆虫」の研究結果をわかりやすくアニメめいた比喩を交えて述べたものが本書である.

概要

第1章 7割のアリは休んでる

 アリの形成するコロニー(=巣)は,わたし達ヒトの会社と同じように,部下の仕事の分担や作業によって成り立っている.しかし,会社では上司や中間管理職といった上役によってより滑らかに会社が動いているのに対し,アリ達の世界にはそういった上下をすり合わせる立場がない.しかもアリの脳は小さく,複雑な行動は取りづらい.こういった制約の中で,どのようにアリ達はあたかもヒトのように一見高度な社会を形成し,回していくのか.

第2章 働かないアリはなぜ存在するのか?

 良く働くアリと,働かないアリ.彼らの違いはどこに起因して,そしてなぜ存在するか.不器用かつ有能な人間が世界消滅の危機を救う,とは.そして,本当に「役に立つ」こととはどんなことなのか.

第3章 なんで他人のために働くの?

 アリやハチに見られる「真社会性」とは,「子を産まずに働く」階級が存在するという特徴がある.しかし,「遺伝子の乗り物」に過ぎないわたし達生物は尽く,自身の遺伝子を後世により多く伝えることを第一目標としている.それならば,なぜ子を産まない働きアリが存在するのか.「我が子より妹が可愛くなる」とは.滅私奉公は,どのようなメリットをわざわざ死にかけてまでもたらすのか.

第4章 自分がよければ

 ヒトの社会において,「犯罪」という,「ルールを犯して自分だけが利益を得ようとする行為」がなくなることはおそらくないだろう.アリの社会においても同じ,「チーター」と呼ばれる裏切りアリが存在することがわかった.ならば,なぜチーターがはびこらないのか.アリの世界の「奴隷制」とは.平清盛最大の失策.チーターなどによる利己主義と働きアリによる利他主義の対立を防ぐ,「究極の利他主義」とは何か.

第5章 「群れ」か「個」か、それが問題だ

 「群れ」とは,その個体数に関係なく,「集団全体で機能を持ち,個体間で相互作用がある個体の集まり」と定義される.では,多くの生物はなぜ群れるのか.そして,一部の生物はなぜ群れないのか.ところで,ヒトの体は多くの細胞によって成り立っている.つまり,ヒトは一つの群れであり,そうすると「個体」とはなにか.ヒトの社会とアリやハチのコロニーに共通して見られる「不完全な群体」とは.そして,それに対応する「完全な群体」はどういうものか.

終章  その進化はなんのため?

 自然選択説と中立説,互いにカバーしあっているため,このふたつで全ての進化は説明できる.ところで,働かないアリがいることでコロニーの存続率が長期的に見て上がることが本書で説明されている.これは「短期的な効率が高いものが生き残る」という適者生存の考え方に反しているのではないか.すべての環境で万能の生物がいれば,進化は終わるのか.「何が書いてあるか」と「何が書いていないか」.

感想

 とにかく随所に挟まれる比喩や例が的を射ており,そのおかげで内容もストンと腑に落ちた.社会性とは他者との関係を追求するものであり,それはヒトでもアリでもそう変わらないものであると思わせてくれる.仮にアリに転生したとしても,コミュ障はやっぱり来世で困るのだろう.こうしてみると,生物という不確定の塊の根底に潜むシステマティックな面が垣間見えて,非常に心地良い.やっぱり理科って,こういう「説明をつけること」が魅力的なんだ.

 どんなことも遺伝的要因だけで決まるわけではないし,環境によってのみ定まってしまうことはない.双方が絶妙なバランスを取りながら決まる.メガネを掛けるのは遺伝的要因で目が悪く,環境的要因で目を鍛錬する機会が少なかったからだろう.あ,でも別にメガネが悪いってわけじゃなくて,むしろガンガンかけるべきで,メガネっ娘のメガネってのは単なる金属やプラスチックの塊って以上にバックグラウンドを推定させる効果があり,さらに衣服と同じように外すタイミングによって「特別な面」を見せることができるというのもあるので,要はかよちんがメガネを外してしまったのは大いなる失策というか一人くらいそういう子がいても良かったんじゃないかとかああもうチクシ

 不器用で地味かつ実直な人間が活躍する.そんなドラマが流行れば,感化されて学校の環境も良くなるんじゃないかな.某不良高校野球ドラマのやってた時とかはひどかったそうな.漫画版は少年漫画らしい「挫折とそれによる正のフィードバック」を職人肌な筆致で描いていてわたしはとても好きなんですが.とはいってもそんな地味な人間が活躍するストーリーは派手にしづらいのか.派手なやつを引き立て役にするくらいでいいよ.……というわけで,河原和音,アルコ『俺物語!!』をどうぞ.

 ちなみに,この本で別にニートは救われない.むしろニートは第4章におけるチーター,フリーライダーに見做されるので,ナチュラルに害悪.だから安心してこの本を他人に薦めるといいよ! 自己保身のために買う人は注意してね,樹海に行きたくなるから!

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

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俺物語!! 1 (マーガレットコミックス)

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