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カードゲームの華は,サーチとドローと選択肢  ――遊戯王・【Nビート】構築論

YOU PLAY WITH THE CARDS YOU'RE DEALT..WHATEVER THAT MEANS
    ――Charles M. Schulz Peanuts

 遊戯王というカードゲームは面白いです.デッキ枚数が最低40枚・初期手札は5枚と小規模なのに,ライフポイントが8000と非常に少ないという特徴を持ちます.もしこちらが何もしなければ4~5回の直接攻撃でGood Gameとなってしまうのです.マジック:ザ・ギャザリングで言えば,初期ライフポイントを7で始めるようなものでしょうか.その癖,予言/Divinationのような単純にドローを行なって手札が増えるようなカードがほとんどなく,ゲームとしての安定性は,主にサーチカードと手札交換カード(=手札の枚数が増えないドローカード)に委ねられています.

 では,サーチと手札交換が大量にあるデッキを組んだら面白いのでは.……本日の議題,【Nビ】ことネオスペーシアンビートというデッキについて.まずはキーカード2種の紹介から.

《クロス・ポーター/Cross Porter》
効果モンスター
星2/闇属性/戦士族/攻 400/守 400
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択した自分のモンスターを墓地へ送り、
手札から「N(ネオスペーシアン)」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
また、このカードが墓地へ送られた時、デッキから
「N(ネオスペーシアン)」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

 Nビにおけるアドバンテージ源です.隠された第一効果は,さり気なく効果解決時に墓地に送って特殊召喚なので《光と闇の竜/Light and Darkness Dragon》が涙目になったりしますがどうでも良いです.やはり注目すべきは第二効果のほうで,《終末の騎士》《おろかな埋葬》の効果によってデッキから墓地に送ることで,Nをデッキからサーチすることができるのが重要な点.タイミングさえ逃さなければ《リビングデッドの呼び声》 も使えますし,そのステータスから《ジャンク・シンクロン》《デブリ・ドラゴン》という手段もあります.サーチは墓地発動なので,シンクロにさえ使わなければ問題なく効果が出ることから,場合によっては蘇生だけしてシンクロせずにいる選択肢も取ることが可能.
 加えるカードは主に《N・グラン・モール》で,シンクロやエクシーズといった帰宅難民を優しくおうちに帰してあげる事ができます.裏守備モンスターにも強く,モグラを常にハンドに抱えられるのはNビにおける一つの強みです.それならば,他のNは要らない子でしょうか?

《コンバート・コンタクト/Convert Contact》
通常魔法
このカードは自分フィールド上にモンスターが存在しない場合のみ発動する事ができる。
自分の手札及びデッキから1枚ずつ「N(ネオスペーシアン)」と名のついた
カードを墓地に送り、デッキをシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 要らない子だなんてとんでもない.手札とデッキからNを墓地に送りつつ2枚ドローするこのカードは,Nビを組むもう一つの動機足りえます.単純に考えればこのカードと手札のNを墓地に送って2枚ドロー,という手札交換に過ぎませんが,六属性に加えて多彩な種族が揃っているNを2枚も墓地に送れること,それを含めて3枚もデッキのカードにアクセスできることは,絶妙な発動条件から見ても十分お釣りが来ます.ただし,効果解決時に手札とデッキからNを墓地に送るため,《マインドクラッシュ》は辛いです.Nを2枚抱えるプレイングを心がければ不発にこそなりませんが.

 つまりNビというのは,《クロス・ポーター》によってサーチした事故要因Nどもを潤滑油よろしく《コンバート・コンタクト》によって回転させていく,一種の闇グッドスタッフというのがその正体です.「ネオスペーシアン」「ビート」だからNで殴ると思った? 残念! 墓地送りでした!


 基本的な動きとしては,終末の騎士召喚→効果でクロス・ポーターをデッキから落としてNをサーチ→次のターンに終末がぶっ殺されたのを見てコンバート・コンタクトを発動,デッキを回転させ良い手札を呼び込みつつ,多くの選択肢から相手を殴り倒す……となります.

モンスター:N

 まず墓地に投げ捨てられるであろうNですが,確かにステータスこそ貧弱なものの効果はなかなか優秀なので柔軟にフィールドに出しましょう.調子に乗ってハンドに加えすぎるとコンコンが撃てなくなるので,投入枚数は4~5枚がベストです.

モンスター メリット デメリット
《N・グラン・モール》 ぐう畜バウンス・抑止力・マイクラされてもハンドを晒さなくて良い 岩石族・地属性
《N・ブラック・パンサー》 闇属性・効果のコピーはカオスやダムドに死な安もらった時に生きる 獣族
《N・グロー・モス》 光属性・植物族・ワンチャン系攻撃抑制効果・デブリからの蘇生・かわいい 攻撃抑制が運次第・ノーパラが見つからない
《N・アクア・ドルフィン》 戦士族・手札破壊・ピーピング・ヴェーラーホイホイ・さりげないバーン 水属性
《N・エア・ハミングバード》 無視できない量のライフ回復・ダムルグにつなげる 風属性・鳥獣族・率先して投入する理由が薄い
《N・フレア・スカラベ》 奇跡が起これば殴れる火力・デブリからの蘇生 炎属性・昆虫族・何のために存在するのかよくわかんない

 上の方が優先度が高いですが,カオス軸じゃないならもちろん順位は変動します.例えば《虚栄の大猿》《レベル・スティーラー》で連続シンクロするデッキならパンサーは3ですし,《ダーク・シムルグ》に墓地BFを組み合わせた鳥獣軸ならハミングが山のようにライフを回復しつつイカロスアタックを食らわせて散ってくれます.

モンスター:その他

 必須カードは終末の騎士.序盤の召喚権はまず間違いなくこいつに費やされるでしょう.このデッキならハンドが減りづらい上に,☆4として6シンクロ・4エクシーズを見ることができ,サーチの効く戦士族で除外もできる闇属性.……パーフェクトだ終末の騎士.惜しむらくは攻撃力が若干ってレベルじゃなく低いところですが,《トラゴエディア》が出しやすくコンコンが打ちやすいとポジティブに解釈しておきます.同義置換としては《ダーク・グレファー》《コアキメイル・グラヴィローズ》があります.しかし,前者は同じく闇戦士で墓地肥やしが速く攻撃力が準アタッカークラスであるものの,トラゴが使いづらくなり結果としてライフを削りきれなくなる点,後者は効果発動が遅すぎることが大きなネックとなってしまいます.

 コンバート・コンタクトの強力な墓地肥やし性能や中盤以降はN・グラン・モールに召喚権を使いたい点からすれば,(特に光属性の)特殊召喚アタッカーは優先して採用したいです.具体的には,

 ……辺りを検討できます.また,終末の騎士の使い捨て感やハンドの減らないことを鑑みても,《トラゴエディア》はコンコンの発動を阻害こそしますが導入すべきでしょう.《冥府の使者ゴーズ》もバックの薄いNビなら働いてくれることが期待されます.

 召喚権を使うアタッカーはグッドスタッフめいて自由に選べますが,やはりカオスを視野に入れると《ライオウ》《死霊騎士デスカリバー・ナイト》《魔導戦士 ブレイカー》などに目が向きます.更に,クロス・ポーターはどこからでも(タイミングさえ逃さなければ)墓地に送られれば効果を発動できるため,蘇生カードと相性が良いです.☆2,攻撃力400というステータスは《ジャンク・シンクロン》《デブリ・ドラゴン》のどちらにも対応しています.

モンスター メリット デメリット
ジャンク・シンクロン 増援に対応・闇属性・カタストルや光属性を作れる・サイドラとの選択肢が強力 蘇生対応モンスターが少ない・エクシーズにアクセス出来ない
デブリ・ドラゴン 壁になる・☆4・モスがいれば黒バラ効果まで見込める クロポしかいない場合光属性に到達できない・風属性・☆6シンクロドラゴン(笑)

 また,デッキからいろいろ特殊召喚できる《召喚僧サモンプリースト》《魔界発現世行きデスガイド》 も弱いわけがありません.ただしサモプリはコンコンを捨てて発動してしまうとわざわざ終末の騎士を特殊召喚してNをサーチする旨味が薄れる点,ガイドは普段ろくに出ないランク3にエクストラデッキの枠を割かなければならない点には留意が必要です.同じノリで《緊急テレポート》も悪くはないですが,こちらは呼べるチューナーが地属性か闇属性な上にあまり引きたくないカードを増やすことになるので,少し構築が変わってきます.

 おそらくデッキには終末の騎士とおろかな埋葬が合計3~4枚積まれているはずなので,《ゾンビキャリア》《BF-精鋭のゼピュロス》《獣神ヴァルカン》まで見た上で《リビングデッドの呼び声》 などが使いやすくなるので投入すべきでしょう.特に前者はハンドの事故要因共をデッキに戻せる上に,終末のおかげでシャッフルが容易で心強いです.

魔法・罠

 
 クロポやNのせいでただでさえ狭いスペース.終末なども積んでると更に逼迫切迫してパンパンでしょうので,魔法罠は最低限必須モノしか積めないことと思います.とにかくコンコンを引くためにサーチと手札交換をマシマシにした方が,このデッキの持ち味である「回転力」が生きるでしょう.そのためにも引けば使えるカードパワーの高いカードを優先して入れるべきです.要は制限カード山盛りってことですけど.

 面白いカードを挙げるとすれば,《強制転移》《魂の共有-コモンソウル》でしょうか.前者は小粒なモンスターを逆に利用できる良いカードですが,これが有効に働くのは相手フィールドにモンスターが単独で立っている場合だけ.中盤以降でそのような状況ならそもそも殴り倒せるかバックに泣くかなので,これが有用なのは序盤だけになってしまいます.そして序盤で転移を使って稼げるダメージはせいぜい500~1500程度.しかも高いダメージを叩き出すのは,本来ハンドに来てほしくないクロポやゾンキャリを引いたとき.これを高いと見るか低いと見るか.
 後者は,コンコン以外でハンドにあるNを使える数少ないカードで,永続魔法というのもヴァルカンゼピュロスとの相性が良い上に,なんだかいろいろ融通の効きそうな事が書いてあって興味深いです.中でもやはりモグラとのシナジーが抜群で,擬似的に通常召喚を2回行えるために高攻撃力モンスター+モグラの封殺パターンが作りやすいのは評価すべき点でしょう.ゼピュロスによるセルフバウンスからの2回の特殊召喚はパンサーやドルフィンが輝く機会でありますし,モスを相手フィールドにプレゼントしてボコボコに殴りかかるのも面白そうです.……ただしこのカード,「Nがフィールドから離れた場合に攻撃力が戻るかどうか」が信頼と貫禄の調整中.うーんこのFAQ.

 

実際の動き

 コンコンで回しつつトラゴーズフォトスラガイドあたりでお茶を濁しつつ,(開闢もしくはダムド)+なにかで大きく削って勝つ,という低速デッキです.グッドスタッフなので1枚がせいぜい攻撃力2000~2800程度にしかならず,ワンキルするのは3~4枚の手札を要するし召喚権の兼ね合いから大体無理.サーチと手札交換を駆使してデッキを無理矢理回し切って殺せるハンドを貯めます.サーチは正義です.ドローは大正義です.
 終末クロポ落としパンサーサーチ→次のターンコンコンでパンサーモスを落とすことで,墓地に光1闇3が揃って相手に威圧感を与えることが可能になります.とはいえ,基本的に初手でサーチするのはモグラが多いので,パンサーをサーチするとモグラを抱えていることがバレてしまいますが.墓地の闇が非常に肥えやすいので,ダムドは腐る場合が往々にしてあることに注意しながら動かすカードを決めて行きましょう.
 コンコンや貪壷は撃てない場面も多いので,トラゴーズの邪魔にならない範囲でブラフとして伏せることを意識してプレイすると意外なほど延命できます.モンスター相手には非常に強いモグラをほぼ間違いなく手札に加えられるので,魔法罠の浪費を誘えれば特殊召喚アタッカー+モグラの並びで勝つ試合も多いです.

欠点

 ありとあらゆるメタカードがぶっ刺さります.次元スキドレライオウソウドレ暗闇ミラーマイクラ割拠御前オピオン……更に終末という低打点が棒立ちになるので,剣闘獣や炎星のような一発殴られれば致命的なカードを余裕で通してしまいやすいことも問題です.基本的に後手に回る受け身なデッキであり,かつデッキが回転するのは邪魔な終末が墓地に送られた二ターン目以降なので,展開力のあるデッキには常に苦しい状況が続きがちです.
 更に加えて,ハンドに来てはいけないカードが多いのも残念な点.クロポは一枚たりとも引いてはいけないカードですし,Nが全て手札か墓地に見えてしまうとコンコンがブラフ以外の何物でもなくなります.デッキ枚数を多くする,という対策もあるにはありますが,せっかくの回転力を殺すと残るのは低打点の有象無象なので,ちょっとせつなさみだれうちかなーって.


 この【Nビート】というデッキはとにかくメタに弱く,打点も低い.あるものはドローとサーチだけ.それでも,デッキを回転させ,細い細い糸のようなシナジーを手繰り寄せて,弱者の力を合わせて強い敵を打ち倒すのは楽しいものです.デッキとしての安定性を多く確保できているので,その分他の要素を複合させることも可能です.サーチして,ドローして集めた質の高い手札から,豊富な選択肢で相手を追い詰める.これこそがカードゲームの面白さであり,そして【Nビート】はそれを体現していると確信しています.


 ……【カオスドラゴンニンジャ】なんていなかった,いいね?